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《寄稿》現代建築における土壁 Vol.1|「溶ける」土壁をコンクリートと組み合わせる
土とコンクリート。
どちらも中身が詰まっていて好きだ。
「溶ける建築」は、木造フレームがコンクリートのコアを覆った住宅である。
コンクリートに外力を負担させることで、木造部分は耐力壁のない開放的なシームレス空間となり、自由に増改築できる可変性ももつ。
左官の松木憲司さんを、愛知県知多半島にある旧大野町に案内した。
朽ちて溶けている古い建物の土壁を見て、この地域には細い竹しか生育していないこと、土壁は砂の成分が多いこと、さらに、溶けてしまった土壁の再利用が出来ることなどを教えてもらった。
注目したのは「土の可逆性」で、雨で打たれて溶けてなくなり、また練り直して壁として使えるところ。繰り返し再生する、持続的な素材といえる。
「溶ける建築」には、家族が減っていく将来に向けて、土壁を溶かして減築できることを組み入れた。
ワークショップで職人の素晴らしさを知る
土壁を記憶にとどめておいて欲しいという施主の要望で、地域の人や子どもたちを対象に土壁ワークショップを開催。
参加者はおよそ30名。竹小舞から始まり、荒壁を付けていただいた。子どもたちはコテを使わず、素手で土を塗りたくり、大はしゃぎ。
このワークショップは、最後に職人を大絶賛することになる。
建築の構成物で素手で握れる素材は数少ない。参加者の誰もが初めての経験で、仕上がりに不安を抱える。しかも人様の家である。
しかし、松木さんらのリズムにのったスピード感満載の技を見せていただくと、みな胸がスッキリした。
このイベントで、家の中身が何でできているかということと、職人の素晴らしい職能を理解してもらった。
左官は、仕様ではなく人
左官工事は、設計図書に仕上げと素材を特記しても意味がない。
それでは仕上がりは担保出来ないから。左官職人の名前を特記するべき。
それは、一般工法でなくなったことを意味するが、人を説明することで左官の世界を伝えやすいとも言える。
建築家は施主の代理人として、創り上げるべき工法、素材、人の選択に関与できる。建築家と左官がセットで動くとメリットが大きいと思う。
土壁は一般的に「伝統工法」の一部と捉えられてしまうが、この名称も曲者で、建築における土壁の展開を狭めていると思う。
土壁とコンクリートはどちらも湿式の建材で、とても相性がいい。
経年変化する鉄ともいいコンビだと思っている。
土は柔らかく、溶けたり、削れる。それが、永続的なフレームとの間に、建築的時間を語れる素材として特別だと思おう。
伝統=古いモノから、新たなデザインの再構築をして、これからも新しい土壁を考えたい。
所在地/愛知県常滑市
竣工/2019年
設計/浅井裕雄(裕建築計画)
左官/松木憲司(蒼築舎)
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浅井裕雄 Hiroo Asai
1964年愛知県生まれ。1989年中部大学大学院建設工学科卒業。1997年國分設計を経て裕建築計画を設立。現在、中部大学、椙山女学園大学の非常勤講師。第6回JIA東海住宅建築賞 大賞(毛鹿母の家)、2018年度 JIA優秀建築賞(工場に家)、2019年 日本建築士会連合会賞 奨励賞(工場に家)、第31回すまいる愛知住宅賞(大池薬局ビル)など受賞多数。
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