《寄稿》壁土の不燃材料認定に 際して改めて確認したい、 土壁の防火性能
不燃材料とは何か
2022年5月より建築基準法施行令の一部改正が施行され、厚10ミリを確保した壁土が、コンクリートや厚さ12ミリのせっこうボードと同等の不燃材料として認められることになった。
土という左官材料を使える範囲が増えるだけでも、実に喜ばしい。
これを好機として、土壁を自家薬籠中(じかやくろうちゅう)の物とする左官職人が増えてくれることを望むばかりだ。
そもそも不燃材料とは、火災による被害を最小限に食い止めることを目的とした内装制限の手段で、20 分加熱しても、
- 燃焼しない
- 防火上有害な変形、溶融、亀裂その他の損傷を生じない
- 避難上有害な煙又はガスを発生しない
以上の条件を満たす材料を指す。
長年、木造建築の防火性能を研究してきた安井昇さんによれば、今回、不燃材料として認められた壁土は、伝統的に日本で使われてきた、粘土を多く含む土に藁スサを混入したものを想定しているとのこと。土壁風の既調合左官材は含まれていない。
壁土はなぜ火に強いのか
左官に用いられる壁土の主成分である粘土鉱物は、 粒子表面や粒子と粒子の間、また粒子の内部に水を蓄えている。
火にさらされると、それらの水が作用して遮熱性能を発揮し、水分が完全に蒸発した後は、壁全体が一体化し、脱落しにくくなる。
こうした特性を活用し、古くから日本では蔵の壁を分厚い土壁とすることで、火災から財産を守ってきた。
にもかかわらず、現代においては壁土が不燃材料として認められず、防火性能が求められるホテルや台所などの壁に仕上げとして用いることができなかった。
一方で、漆喰は不燃材料として認められていただけに、今回の壁土不燃材料認定は、「ようやく」との感慨がひとしおである。
構造体としての土壁が防火性能を発揮する条件
これまでも土壁は、条件をクリアすれば、市街地の火災による延焼防止を目的とした防火構造として認められてきた。
壁を防火構造とするには、30分の加熱に対する、
- 遮熱性(片面に火が当たっても反対側が160度以上に上昇しない)
- 遮炎性(炎が反対側に通 るような亀裂や損傷を生じない)
- 非損傷性(構造体として支障がある変形や破壊をしない)
以上の条件が求められる。[ 図1参照 ]
そのため、木造真壁の土壁は、40ミリ以上の塗り厚確保に加え、屋外に用いる場合は柱のチリを15ミリ以下にするか柱の屋外側に厚15ミリ以上の板張り、または厚12 ミリ以上の下見板張り。
壁厚が30ミリの場合はチリジャクリやノレンによる入念なチリ仕舞いが必要となる。
不燃材料だからといって過信は禁物
ここで注意したいのは、法定基準をクリアするだけで完全に火事が防げるわけではないということ。
前述の安井さんが携わった実験によれば、厚60ミリの土壁は1時間火にさらされても反対側の表面が100度を超えなかったが、厚40ミリの場合は300度を超える結果となった。[ 図2参照 ]
つまり、土壁仕上げを厚10ミリ確保するだけで は、火に長時間さらされれば壁内の温度は上昇し続ける。
その状況を繰り返すうちに壁内の木部が炭化し、火災に発展する危険性があるのだ。
かくなる上 は、壁土の防火性能を過信することなく、使用箇所に適した仕様・壁厚の選択が必要だろう。