《相談室》『 DIYの壁と左官の壁の違いは?』にいかに答えるべきか問題

Q

コロナ禍の影響もあるのか、家を居心地よくしたい人たちの間で、ますますDIYが流行っているようです。「自分たちが塗った壁と、職人さんに塗ってもらった壁ってどう違うの?と無邪気に聞かれると、どう答えたらいいのか困ります。

A

そりゃあ違わないんだったら「安いほうで」というのが人情です。

まあ、DIYと言っても、YouTube や雑誌を見たりして情報を得て真似をするということですよね。
そこから上にはいかない。まあ、たいていは想像を下回る。職人は独創なんです。

僕たちは反復して何度も何度も練習して技術を得て、それを提供しているわけですね。
で、提供されたお客さんは壁の善し悪しはわからないかもしれないけど、住んでて気持ちいいかどうかとか、身体で感じるものがあると思います。

職人は長年住んでもらうために急所を押さえて壁を塗っている。
柱のチリまわりや入り隅、気持ちよくいつも見てられるように納めています。

DIY ではどうでしょう。
やってすぐは「うまくできたな」と達成感があっても、どこか違和感があったりして何十年も毎日見るのはしんどい。

20 年くらい前でしょうか。俳優で飛騨・世界生活文化センター長でもあった渡辺文雄さんとお食事する機会がありました。
「左官はそんなに頑張って目立たなくていいんだよ」とおっしゃった。
違和感なく毎日ただそこにいてくれる壁がいいと言われたんだと思います。

僕は店舗のデザイン壁もやっていたので、人に驚いてもらえる壁を塗りたいと頑張った時期ももちろんあります。そういう時期も大切でした。
でも家の中で毎日見る壁と店舗の壁は違う。
また、お客さんも新築のときは張り切った壁を求める方もいる。
最近薪ストー ブのまわりや台を頼まれることが多く、ワンポイントある左官をやってほしいと相談される。

でも僕はいつも「やってもいいですけど、目立たないほうがいいですよ」と言います。
最初はいいけど、 毎日、何年も見ると飽きてきます。
最初ちょっと物足りないぐらいがちょうどいい。
版築で仕上げてほしいと言われても、色とりどりや派手なグラデーションはやらないほうがいいんじゃないですか、地味でも技術は一緒ですと(笑)。

そして、「1年点検にうかがったときにまたご相談に乗りますよ」と言いますが、1年経つとわかるようで、これでよかったです、とおっしゃるお客さんがほとんどです。