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土の建築を介して、世界中の人が交流するフランス・リヨン郊外「土のお祭り Festival Grains d’isère 2019」レポート

フランスのグルノーブル国立建築大学内に「クラテール(CRATerre)」という「土建築の研究所」があります。創設は、ちょうど40年前の1979年です。
世界を見渡すと、土を構造とする建築が3割以上を占めるといわれます。土は各地に存在し、プリミティブな技術で人の居場所をつくることが可能だからです。
クラテールは、この土という素材や構法を科学的に研究し、伝統的な土の建築の修復の際に生かしたり、現代のエコロジカルな建築方法に役立てたり、子どもから大学生、一般に対して教育、啓蒙を行う、といった多くの活動を行っています。

このクラテールが中心となり、毎年初夏にリヨン郊外にある実験工房、グランズアトリエ(Les Grands Atelier)で、「フェスティヴァル・グランディゼール(Festival Grains d’Isère 通称・土のお祭り)」が開かれています。ヨーロッパはもちろん、アジア、アフリカ、南米などから、土建築の研究者、建築家、職人、ジャーナリスト、学生たちが集まり、さまざまな土の構法のデモンストレーションやワークショップ、研究成果を発表する展示やセミナーなどが行われています。

今年の土のお祭りは、5月20日(月)〜6月1日(金)に開かれ、日本からは、高橋昌巳さん(建築家・シティ環境建築設計)、萩野紀一郎さん(建築家・富山大学准教授)、遠野未来さん(建築家・遠野未来建築事務所)、宇野勇治さん(建築家・愛知産業大学准教授)、柳沢究さん(建築家・京都大学准教授)、鈴木晋作さん(建築旅人)、多田君枝(コンフォルト編集長・日本左官会議事務局長)が参加しました。

土建築の構法は、日干し煉瓦、版築、練り土積みなど、さまざまです。一方、日本では、土自体を構造とするのではなく、木造建築の柱の間に壁をつくる構法として左官技術が発展しました。木舞掻き、荒壁から上塗り、装飾に至るまで、高度で繊細な技術として高められたこと、また、古くから土を愛でる文化を持っていたこと、近代化の一方で伝統的な技術が継承されていることが、世界的に見ても特別だといえます。

ほかの国から見れば日本の構法は興味深く映り、逆に土の建築の先端的な研究は、環境、省エネ、健康といった面からも、日本の現代の建築にとって有意義であると考えられます。
また、クラテールが行ってきた土を通した子どもや学生向けの教育ブラグラムは、日本にも生かせるものです。ここでは、それぞれの立場からのレポートを順次、掲載していきます。
[ 文・多田君枝 ]

土のお祭りでは、それぞれがチームとなって、ワークショップ形式でさまざまな土の技術を体感する。新しい技術の実験の場にもなる。
ワークショップの前にはみんなでラジオ体操。長年、クラテールと関わってきた丸山欣也先生が伝えたもので、すっかり定着している。
フランス・ブルターニュ地方やイギリス・デボン州に伝わる「練り土積み」(英語ではcob コブ、フランス語ではbauge ボジェ)という伝統技法を経験するため、土とワラを混ぜる。右が指導する建築家のフランソワ・ストレイフ(François Streiff)さん、左は鈴木晋作さん。
練り土積みの体験。藁入りの土を勢いよく投げつけて積み上げ、道具や手で成形していく。
伝統的な技術の普及とその改善を目指して設立された、イランの「エスファク・マッド・センター(Esfahk Mud Center)」による、日干し煉瓦によるボールトづくり。
押し出し成型による土パネル。「アマコ(amàco 土や木などを研究するセンター)」の技術者、ロマン・アンジェ(Romain ANGER)さん、ライオネル・ロンソー(Lionel Ronsoux)さんが開発。乾かして壁のパネルとする。
左がローヌ・アルプ地方で一般的な土。右の4点はふるいにかけて粒子の大きさ別に分類したもの。自然の状態で大きな石から細かな泥までが混じっているため、版築構法に適している。
会期中、クラテール40周年を祝うパーティが開かれた。これはそのときの記念撮影。前列、ブルーのTシャツは丸山欣也さん。

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